Claude Codeに高い関心を持っていた。しかし、月額$20の出費を惜しみ、なかなか導入に踏み切れずにいた。
そんな中、GoogleからリリースされたGemini CLIが目に留まった。無料で使える点に惹かれ、早速試してみることにした。
実際に使ってみてこれは単なる「ターミナルでAIが使える」以上の価値があることがわかった。
なぜターミナルなのか
Web版ChatGPTやClaude、Cursorがあるなかで、なぜコマンドラインなのか。答えは「摩擦の排除」にある。
コードレビュー中にエラーの原因を調べたい時、新しいAPIのサンプルコードが欲しい時、複雑なワンライナーを組み立てたい時。毎回ブラウザを開いてコピペを繰り返すのは非効率だ。ターミナルならパイプやリダイレクトでシームレスに連携できる。
# ログファイルの異常を即座に分析
! cat error.log | gemini -p "このエラーログの原因を特定して"
セットアップは3分で完了
Claude Codeとは違い、Gemini CLIはwindowsでもWSLなしで動作する。
私は、慣れたコマンドを使いたかったのでWSL環境にセットアップした。
事前準備:Node.jsのインストール
Gemini CLIはNode.js(バージョン18以上)環境で動作する。環境にNode.jsがインストールされているか、またバージョンが要件を満たしているかを確認。
node -v
もしインストールされていない、あるいはバージョンが古い場合は、公式サイトやNode Version Manager (nvm)などを使ってインストールする。
Gemini CLIのインストールと認証
Node.jsの準備ができたら、次のコマンドでGemini CLIをインストール。
npm install -g @google/gemini-cli
インストール後、gemini
コマンドを実行すると、初回設定が始まる。
gemini
表示される指示に従い、テーマカラーの選択とGoogleアカウントでの認証を進めれば、準備完了!!
実際の使用例
1. コードの即座生成と改善
# 関数生成
JSONファイルを読み込んで特定のキーでソートするPython関数を作って
# 既存コードの改善
@utils.py このコードのパフォーマンスを改善して
@
記号でファイルを直接読み込める点が秀逸だ。複数ファイルの同時読み込みも可能で、プロジェクト全体の文脈を理解させられる。
2. エラー解決の高速化
# エラーメッセージを直接調査
! python main.py 2>&1 | gemini -p "このエラーの解決方法は?"
3. ドキュメント作業の効率化
# README生成
@src/ このプロジェクトのREADMEを作成して
# API仕様書の要約
@api-spec.yaml この仕様書の変更点を前バージョンと比較して
技術文書の作成や保守も大幅に効率化される。
4. 学習とリサーチの効率化
# 新しい技術の調査
React Server Components 2025の最新トレンドを調査し、まとめて
# 複数の設定ファイルを比較
@config/prod.yaml @config/dev.yaml この2つの設定の違いを表で整理して
# コードベースの理解
@src/**/*.py このプロジェクトのアーキテクチャを図で説明して
GeminiのWebブラウジング機能は思った以上に有用だ。プロンプトに応じて最新のWeb情報を参照し、それを解釈して回答してくれる。
5. 自動化スクリプトの生成
# 定期バックアップスクリプト
PostgreSQLのバックアップを週次で実行するbashスクリプトを生成して
# 開発環境のセットアップ
@package.json この依存関係を元にDockerfileを生成して
# ログ監視とアラート
アクセスログで異常を検知してSlackに通知するPythonスクリプトを生成して
特にDevOps周りのスクリプト生成能力は高い。生成されたスクリプトは実用レベルだが、セキュリティチェックは必須だ。
詳細な機能検証
ファイル操作の柔軟性
@
プレフィックスは思った以上に柔軟
# 単一ファイル
@main.py
# 複数ファイル
@src/app.py @tests/test_app.py
# ディレクトリ全体
@src/
# ワイルドカード
@*.json
ただし、大きなプロジェクトでディレクトリ全体を指定すると、トークン数が膨大になる点は注意が必要だ。
対話の継続性
セッション中はコンテキストが保持される。これにより、段階的な改善が可能
# 1回目
SQLiteデータベースを操作するPythonクラスを作成して
# 2回目(コンテキスト継続)
さっきのクラスにトランザクション機能を追加して
# 3回目
エラーハンドリングも強化して
これは長時間の開発作業では非常に有効だ。
出力フォーマットの制御
# JSON形式での出力
このAPIレスポンスの構造をJSON Schemaで出力 @api-response.json
# CSV形式での出力
このデータをCSV形式に変換して保存 @user-data.csv
# シェルスクリプト
Gitリポジトリの健全性チェックをするシェルスクリプトを生成して --format bash
出力フォーマットの指定により、後続の処理との連携が格段に向上する。
制限事項と対策
無料枠の現実
1分60回、1日1,000回の制限は、継続的な開発作業では意外と早く到達する。特に大きなファイルを扱う際はトークン消費が激しい。
精度の課題と対処法
コード生成の精度は確実に向上しているが、依然として検証は必要だ。特に以下の点で注意が必要
- 最新ライブラリの使用法: 新しいAPIの仕様は不正確な場合がある
- エッジケースの処理: 異常系の処理が甘い傾向
- セキュリティ考慮: 入力値検証やSQLインジェクション対策が不十分
対処法として、生成されたコードは必ずレビューし、テストをしてから運用に投入する。
ネットワーク依存の課題
当然だが、オフライン環境では使用できない。また、ネットワークが不安定な環境では応答が遅くなることがある。ローカルLLMとの併用も検討したいところだ。
パフォーマンス分析
リリース直後ということもあり、応答速度にはバラつきがある。
- シンプルな質問: 1-2秒
- コード生成: 3-5秒
- ファイル解析: 5-10秒(ファイルサイズに依存)
- 複雑な推論: 10-15秒
ピーク時間帯(日本時間の夕方)は若干遅くなる傾向があるが、実用に支障はない。
開発ワークフローとの統合例
CI/CDパイプラインでの活用
# テストカバレッジの分析
! coverage report | gemini -p "カバレッジ不足の重要な箇所を特定して"
# デプロイ前チェックリスト生成
@deployment-config.yaml この設定での本番デプロイ時のチェックリストを生成して
コードレビューの支援
# 差分の分析
! git diff main | gemini -p "このPRの変更点とリスクを評価して"
# セキュリティチェック
@new-feature.py セキュリティ脆弱性をチェックして
ドキュメント保守の自動化
# API仕様の更新検知
@old-api.yaml @new-api.yaml API変更点を changelog形式で出力して
# README同期チェック
@README.md @src/ READMEとコードの整合性をチェックして
セキュリティ考慮事項
企業利用ではデータポリシーの確認が重要だ。GoogleのAPI利用規約では、API経由の入力はモデルの学習に使用されないと明記されている。しかし、CLIツールがどの規約に準拠するかは、常に公式ドキュメントで最新の情報を確認すべきである。機密性の高いコードを扱う場合は、有料版の利用や利用規約の詳細な確認が推奨される。
他ツールとの使い分け
- 単発の質問: Gemini, ChatGPT, Perplexity
- 文章生成: Claude
- コーディング: Claude Code
- ワークフロー統合: Gemini CLI
- チーム共有: ChatGPT Plus(GPTs活用)
Gemini CLIの強味は「Web検索を簡単に既存の開発フローに溶け込ませることができる」点にある。
私の使い方
実際に私が採用している使い方を紹介する。
# 朝のルーチン:昨日のコミットを要約
! git log --oneline -10 | gemini -p "昨日の作業内容をまとめて"
# 開発中:新機能の設計
@requirements.txt このプロジェクトに認証機能を追加するアーキテクチャを提案して
# 終業前:課題の整理
@TODO.md 明日優先すべきタスクをピックアップして
今後の期待と課題
GoogleのAI戦略における位置づけを考えると、Gemini CLIは重要な実験的プロダクトといえる。他のGoogle製品との統合可能性も高く、今後の発展に期待したい。
現時点で改善を期待したい機能
技術的な改善点
- ローカルLLMとの選択可能性: オフライン作業対応
- より柔軟な出力フォーマット制御: JSON、XML、YAML等の構造化出力
- プラグインシステム: カスタム機能の追加
エンタープライズ機能
- 監査ログ: セキュリティ要件への対応
- カスタムモデル: 企業固有のファインチューニング
- オンプレミス版: 完全にローカルな環境での実行
競合ツールとの詳細比較
Claude Code vs Gemini CLI
Claude Code の優位点
- コード生成精度が高い
- 自律的に考える能力
- エラー修正能力が高い
Gemini CLI の優位点
- 無料で利用可能
- Google検索との連携
- プロンプトに忠実
GitHub Copilot CLI vs Gemini CLI
GitHub Copilot CLI の優位点:
- IDEとの深い統合
- コード補完に特化
- エンタープライズサポート
Gemini CLI の優位点:
- より自然な対話
- ファイル操作の柔軟性
- Web検索機能
- 汎用的なタスクに対応
実際の活用事例
ケース1: レガシーコードのリファクタリング
# 古いPythonコードの分析
@legacy_module.py このコードの問題点と改善案を教えて
# 段階的な改善
まず型ヒントを追加したバージョンを作成して
次にエラーハンドリングを改善して
最後にテストコードを生成して
ケース2: 新技術の学習
# 最新情報の収集
googleでWebAssembly 2025 performanceを調べて要点をまとめて
# 実践的な学習
WebAssemblyのRustバインディングの簡単な例を教えて
# 理解度チェック
WebAssemblyのQ&Aを作成して
ケース3: 障害対応
# ログ分析
! tail -1000 /var/log/application.log | gemini -p "エラーパターンを分析"
# 原因調査
@config/database.conf このDB設定で起こりうる問題は?
# 対策立案
メモリリークの対策をPythonで実装して
まとめ
Gemini CLIはまだまだ未熟で「完璧なツール」ではない。しかし「開発フローを変える」可能性を秘めている。
Googleの資本力を背景に持ち、オープンソースとして劇的に進化していくことだろう。(Remember, BARD!)
重要なのは、これを単体で使おうとせず、既存のツールチェーンの一部として組み込むことだ。ターミナルベースの開発スタイルが身についているなら、試してみる価値は十分にある。
無料で始められるので、まずは1週間使ってみることをお勧めする。あなたの開発スタイルにマッチするかどうかは、実際に使ってみないとわからない。
この記事はGemini CLIのリリース直後から3日間集中的に検証した結果をもとに執筆しています。今後のアップデートにより動作や機能が変更される可能性があります。
コメント